芝生の長さはあたしの胸くらいの位置まであった。


芝生の葉は時折鋭利な刃物のようにあたしの皮膚を切り裂いた。


どれだけ気をつけて歩いていても、周囲が刃物で囲まれているのと変わらない状況だった。


想像以上の過酷な道の中、あたしは時折小石を見つけてはそこに座って休憩を挟んだ。


露出している肌に土をぬり、芝生の葉から身を守ることも考えた。


大きな人間からすればなんてことのない庭だけれど、小さなあたしにとっては道も悪く、まるで巨大なジャングルの中にいるような感覚だった。


一歩足を踏み出すのにも苦労するほどの悪路だ。


土を体に塗り終えたあたしは再び歩き始めていた。


少しでも早く庭から脱出して、陽介君の家から遠ざかりたい。


この庭を出てしまえば、あとはコンクリートの道を歩くだけだ。


自分にそう言い聞かせて足を動かす。


幸いだったのは、今日は風がよく吹いているというところだった。


太陽も弱く、歩いていても喉の渇きを感じにくい天気だ。


これが雲1つないような快晴なら、庭を出る前に倒れてしまっていたかもしれない。