颯輝 回想

「颯輝、俺、今日先に帰るね。母さんが早く帰ってこいって言っててさ。」

いつも部活が終わるまで図書室で待っててくれるのにこの日だけは違かった。

「じゃあ、俺も部活休む。那月、俺部活休むー。部長に言っといて。」

同じ部活の友達にそう言って、俺と颯都(はやと)は一緒に帰る。

「部活休んでよかったのか?エースなのに。」
「良いんだよ。」

雪が降ってる中俺と颯都は二人傘を広げてのんびり歩く。
いつも通り他愛のない話をして。
しかし、あの悲劇は唐突だった。

「颯輝、危ない。」

よそ見をしていた俺は車がスリップしてこっちに向かってきているのに気が付かなかった。

気づいた時には俺と車の間に颯都がいて、あいつは動かなかった。

「颯都?颯都!」

いくら揺さぶっても颯都は動かなかった。
誰かが呼んでくれたのか遠くからは救急車のサイレンの音が聞こえた。
そこで俺は意識をなくした。颯都を抱いたまま。

次に目を覚ましたのは病院だった。多分目の前で颯都が死んだからショックで意識をなくしたんだって医者は言ってた。
起きてすぐに母さんから颯都が亡くなったって聞いた。その時は涙は出なかった。悔しさだけだった。
どうして俺はよそ見をしててあの車に気がつけなかったのか、颯都が死ぬ必要があったのか、と。

その事故があってからは俺は部活を辞めて、授業中サボって白木蓮の木の下で本を読むことが多くなった。白木蓮は颯都とよく授業をサボってたところだし、何故かそこに行けば颯都を感じることが出来るから。