3時間目、数学の時間

「憂依、ここ教えて?」

蓮音は数学と理科が苦手。

「いいですよ。これはこうやるんですよ。」

簡単に教えると蓮音は分かったみたいで「ありがとう」と言って先生が板書した問題を解き始めた。
しばらく考え事をしていたら急に先生が

「望月さん、この問題といてくださいな。」

と言ってきた。ノートに解いてないから当てられたんだ。

「はい。」

黒板の方に行き、問題を読んですぐに答えを書き出す。
みんなにも分かるように端的に。

「先生、書き終わりました。」
「正解。やはり望月さんの答案は分かりやすいですな。」

そう言い、私に席に戻るように促してから問題の解説を始める。

「憂依、やっぱ凄いね。」

隣から少し興奮した蓮音が声をかけてくる。

「有難うございます。ほら、解説聞かないと分からなくなりますよ。」

蓮音の意識を授業に集中させてふと外を見ると、一人の男子生徒が白木蓮の木の下で本を読んでいた。今は授業中。進学校である栖鳳(せいほう)高等学校に、そういう生徒は少なからずいるとは思うが滅多に見ない。
栖鳳は、ネクタイの色で学年がわかる。三年間変わることがないので少し残念だけど。今の1年は蒼、2年は翠、3年は朱。彼のネクタイは翠。2年生ということ。
時計を見ると残り5分で授業は終わる。
授業を抜け出してきたのかな。
教室に戻らないのか。
そんなことを考えているうちに授業終わりのチャイムがなった。

その後外をみると彼はいなくなっていた。