神社の目前、お百度参りをする人だったりただの参拝客だったり、いてもおかしくはない。

でも、これはただ、仲間に目撃されるのを避けるためだ。

それはさすがのこの人も承知のことだった。


さっと茹でた熱々の麺を椀に盛り、汁をかける。

ケンキチさんが出したうどんを目にするや、「何屋だ山崎」と感心したようにほう、と副長は呟いた。



「で、何用だ?」



うどんを一口啜ると、副長は味の感想よりも先にまずそう言った。

しばらく食べていた俺は箸を置いた。

あの、と口を開こうとしたけど、それはこの男の一言に遮られた。



「もしかしなくても、ひよこのことだろ」



むしろそれしかないよな、と続けた。

いや、他にも御陵衛士のこととか色々ありますよ、と思ったけど、さすがに図星で何も言い返せなかった。

それを隠すように、小さく笑む。



「土方さんは何でもお見通しだなあ、まったく」



そう。

今夜こうして呼んだのは、紛れもなく、彼女の――妃依ちゃんのことを相談するためだ。


俺が今後屯所からいなくなるということを、未だ彼女に告げていないから。

それで気持ちがややこしくなっているから、整理したいとの意味も込めて。


つい、昔のように“土方さん”と呼んでしまった。

懐かしい響きだ。