妃依ちゃんの声が出た。
彼女は心底喜んでいた。

いや、彼女よりも俺の方がはるかに心が弾んでいた気がする。

そのあまり、彼女を抱き締めてしまったりして……



やってしまったな、と文字通り頭を抱える、彼女が来て5日目の夜更け。


俺は屯所を抜け、西へ向かっていた。



少し歩けば村が広がっている京の都は、不思議な場所だなと感じる。

そこに喧騒はない。
ただ土の臭いがあるだけだ。

初めにいた壬生もこんな風だったのを思い出しては、時折懐かしさに負けそうになる。


そんな場所を歩いているのにも、訳がある。


朝方、“ある人物”に文を出した。

監察方の山崎丞に、渡してくれるよう頼んでおいたから、朝のうちに目を通してくれたんじゃないかと思う。

文を渡した時、山崎さんにも協力を要請して、申し合わせをしておいた。


私用で隊士を使うなんて、とも思うのだけど、今の世情では協力を得るより他はない。

あの人と二人で会うには、屯所内は尚のこと、祇園などでも難しいだろう。


そうこうしているうちに、右手に建物が見えてきた。

神社だ。
網敷天神と言うらしい。


そしてその前に、「夜鳴」と側面に書かれた振り売りが、ぽうっと静かに灯る光とともに浮かび上がっている。

幻想かと思うほど不気味に見えて、深く息を吐いた。


何かの間違いがなければ、ここの店主は見知った人のはずだ。