「やっぱり妃依ちゃんだ!荷物、取ってきたんだね」



奇遇にも程があるってもんで。


思わず椅子から立ち上がってしまう。

あまりにも驚いたのと嬉しかったのと、複雑な気持ちで、ついはしゃぐ子供のような声が出てしまった。



「おきぬちゃん、団子一つ!」


「へえ、ただいま」



呼び寄せ、団子を注文してあげる。


しばらくは俺も黙ってしまった。

何から話したらいいか、こんな時に限って分からなかった。


すると、妃依ちゃんが、矢立と巻紙を取り出した。

それから、他愛もない話をした。

巡察は終わったのか、とか聞かれたくらいだから、他愛もないという段階でもないかもしれない。


それでもこんな店先で会話しているということ自体が、不思議な気分にさせる。

なんだか少し、照れくさい。



「……本当はね、ここで妃依ちゃんにお土産を買って帰るつもりでいたんだ」



でも、今こうして会えたから、買わずに一緒に食べて、同じ時を過ごしている。

持ち帰って食べてもらうよりも、特別な気がする。


なんだか、たまらなく愛おしい時間だ。

どうしようもなく愛おしい。


妃依ちゃんが、ではなく、この流れる時と空間が。


俺はいつまで“ここ”にいられるのだろう?

なんて、考えなくても答えはすぐ出てしまうのだが。



困ったようにする彼女の横顔を見る。

何かを感じざるをえないこの偶然に、俺の口はつい動いていた。



「こうして会えるなんて、京は狭いね……いや」



広い空を見上げたくなった。

相変わらず通りは活気に満ちていて、それでもここにこうして、俺と妃依ちゃん、二人の空間がある。

何度も偶然出逢ったりもして、なんとも不思議なことだ。


つい、ふっと笑みがこぼれる。