「あら、お仕事終わったん?」


「そう。団子一つお願い、おきぬちゃん」


「へえ」



なんとか巡察を終え、一人抜けていつもの茶屋で息抜きをすることにした。
妃依ちゃんへのお土産を買うつもりで。

隊の皆はもう屯所に戻っている頃だろう。

この茶屋の看板娘、おきぬちゃんにも、すっかり巡察終わりであることを見抜かれている。
そんなに疲れた顔でもしてるのだろうか?


ふう、と溜め息のように、長く息を吐く。

巡察中は無理矢理頭の隅に追いやっていた妃依ちゃんのことが、吐く息とは逆にぶわっと戻ってくる。


相談なんてできない。誰にも。

相談なんてしたが最後、俺の首は屯所内の晒しものにでもなるんじゃないだろうか。


――でもただ一人、何とか交渉すればできるんじゃないか、なんて淡い期待を抱ける人が……いると信じている。

“あの人”なら、きっと。

でもそれは最終手段だ。



「はい、おまちどおさまー」


「ん、ありがとう」



腕を組んで天を見上げていると、おきぬちゃんがお茶と団子を持ってやってきた。

お茶を啜りながら、ぱくつく。


ここの団子は、俺が京にいる数年でもまったく変わらない味だ。

だというのに、世間は常に動いている。
日々どこかで情勢が変わってゆく。

同じ世にこんなこともあるものなんだな、と、なんだかほっとしてしまう。


もしも生まれ変わることができたとして、この団子にでもなれたら、なんて気が楽なことか。


と、頬張りながら馬鹿なことを考えていると、偶然視線を向けた先に、見たことのある禿のような髪型の少女が目に入った。



「――あれ、妃依ちゃん?」



今日二度目の、“こんなことがあるのだろうか”だ。