乱れる息を整えるため、枕に押し付けていた顔を横に逸らした。自然と肩が上下する。気持ちを落ち着かせるようにゆっくり瞼を閉じた。


「出来ないよ…」


ポツリ、と弱気の言葉を落とす。けれど、頭は問いかけていた。


…じゃあどうするの?


今まで逃げてきた結果がこれ。変わりたいから渡そうって決めたのに、ここでまた逃げたら何にも変わらない。


だけど、怖い。彼に受け入れられる保証なんてどこにもない。それに、もしこの事がクラスに広まればどうしようと考えてしまう。


その葛藤の決着はつかないまま、私は知らぬ間に眠りについていた。


翌朝、部屋に鳴り響くスマホのアラームで目を覚ました。


「ん〜…やばっ、私寝てた!?」


勢い良く体を起こすと、寝ている間に無意識に被っていた掛け布団。その上にはスマホがあった。ピピピ、と鳴り続けるスマホの画面には「6:00」と表示されている。


ま、マジか…。いつの間にか寝てるなんて。


私はスマホのアラームを止めて、ベッドの端に寄せられているレシピ本を持ち上げた。それを傍のベッドの枕元に立て、支度をするべく部屋をあとにした。


二月十一日…。もうバレンタインはすぐそこまで迫って来ているのに、結局昨日は何も決められなかった。今日こそはきちんと渡すものを決めないと…。


ズシリと肩にのしかかってくるような思いが、私を密かに苦しめていた。