「って言っても何を作ればいいんだろう!?」


渡すと決めたのは良いものの、私は早速壁にぶち当たっていた。お風呂も上がり、夕飯も食べ終わって予定がなくなった所でバレンタインのことについて考えていたが、ベッドの上で頭を抱えている。


図書館で借りてきたお菓子レシピ本やチョコの画像が映されたスマホがベッドの上に散らかっている。


そもそも、彼女でも友達でもない人が手作りチョコを渡すなんていうのはどうなんだろうか。それに、山崎くんが甘いもの食べられる保証なんてどこにもないし…。


考えれば考えるほど不安になって来て、スマホへと手を伸ばした。


検索画面を開いて、キーボードをフリックしていく。


「て、づ、く、り、ち、ょ、こ」


スペース。


「お、も、た、い、?」


何を検索しているんだ、と思ったがスマホ以外に自分の拠り所がなかった。


画面の真ん中で暫く輪っかが回っていたが、それもすぐに終わって検索結果が出てくる。


藁にもすがる思いでその一番上のサイトをタップしてみる。見出しは「彼女でもないのに手作りチョコは大丈夫?男性の本音は…」だった。


開かれた画面をゆっくりスクロールしてみる。二、三回そうすると文章が出てきた。それを目で追っていき、お目当ての文に着く。


「手作りの方が嬉しい。彼女とか関係なく、その方が気持ちがこもってる気がするから」(35歳 会社員)


その一文を見て気持ちと頬が緩んだ。そのまま読み進めていく。


「買ったやつの方がいい。味も確実だし、返す時にそこまで重たくない」(22歳 美容関係)


ひゅっ、と息を呑んで固まる。同時に顔面蒼白になっているかもしれない。


味…確実、確実…。重たくない…。頭の中で二つの単語が旋回して、気持ちが陰る。


そのせいで気が進まないが、彼に渡す物を少しでも確実にするためには読み進める他なかった。


先程と同じように画面をスクロールしていく。そうすると、皆意見はバラバラだった。


最初の人と同じように手作りが良いという人もいれば、嫌だという人もいる。その結果として、まとめの欄に書かれた円グラフでは六割が「手作り」で残り四割は「市販」という微妙なものだった。


これでは結局彼がどっちなのかハッキリとした判断はしかねる。そして気づいた。例え「八割が手作り」という結果になっていたとしても、山崎くんがどっちかなんて判断はできないのだ。


彼は彼だ。いくらネット上のデータをかき集めても、それは多数派の意見が取り上げられているだけで、必ずしも山崎くんがそうとは限らない。彼の事は直接彼に聞いてみないと分からないのだ。しかし…


「そんなの無理に決まってるでしょぉぉお!?」


持っていたスマホをベッドに叩きつける。そしてスマホを追いかけるように自分もベッドに倒れ込んだ。


「無理無理無理!聞けるわけないよ!そんな事したら既に渡すってことバレちゃうし!そもそも挨拶も出来ない私にそれは難易度が高すぎる!」


手足をジタバタさせて枕に向かって叫んだ。そのため声はハッキリ聞こえていない。傍から見れば溺れているように見えそうだな、などと変なことを冷静に考えた。