「バレンタイン、どうしよう…」
校門を出て呟く。
麻衣と同じような渡し方をすれば不自然ではないかもしれない。嫌がられる可能性だって低い。周りに冷やかされる事も…
そこまで考えて、私は大きくため息をついた。
そもそも、毎朝挨拶をしていれば今こんなに悩む必要はなかったかもしれない。彼との挨拶が習慣化していれば、渡す事に関しては幾らか楽だった気がする。
君と話したい。話しかけたい。君のことがもっと知りたい。もっとこっちを見てほしい。私を意識して欲しい。
毎日そんな事を考えて君に話しかけようとするけど、恥ずかしいし拒絶されるのが怖くて出来ない。だから、こうやって一日の終わりに毎回後悔することになる。
これをもう何日繰り返してるのか分からない。きっと半年は軽く超えているんだろう。
マイナスの可能性ばっかり考えてしまうこの癖を直して、君に近づきたいのに…。まだまだ臆病者の私は、君に気持ちを伝えた後の事ばかりだ。
こんな私の事、君の目にはどう映ってるんだろうか。
君とはまだ目も合わない。そんな関係に、一人でずっとやきもきしてる。
この関係を変えたい、だけど怖い。
毎日その繰り返し。
そして、私が何度も後悔するうちに夏になって、秋になって、冬になって、もう同じ教室に居られる事が終わりに近づいているんだ。
…これが、本当に本当に最後のチャンスかもしれない。
そこで私は一旦思考を止め、既に日が落ちた空を見上げて白い息を吐いた。藍色に滲んでいく息。そして、視線を前に戻した。
渡そう。山崎くんに。
私は君に思いを打ち明ける覚悟を決めた。