「おはよう。あっこれどうぞ〜」
「えっ、いいの?ありがとう。待って待って、はいっ」
「わっ、ありがと〜」
朝から教室はずっとこんな感じだ。女子達によるチョコ交換がめまぐるしく行われている。もちろん私も例外ではない。
「あ、杏おはよう!はいこれ」
朝イチで登校してきた友達にクッキーを渡す。
「ありがと〜、近々お返し持ってくるね」
「はーい」
あと確実に渡す人は七人…っと。杏が去った後、紙袋の中を確認して残りの人数を数えた。
そして、その中で一つだけラッピングが違うものがある。それは言うまでもなく…彼のものだ。
皆に渡す用のラッピングは青い袋に白いインクで英文がプリントされたもの。山崎くんへのラッピングは箱型だ。ブラウンの小さめの箱にワインレッドのリボンを十字に括りつけている。
味気ないかな、と思ったけれどあまり可愛すぎても山崎くんが所持するのが恥ずかしそうと思っての結論だった。
「おはよー」
「おう山崎、おはよー」
来た。
私の体はその場で固まり、心臓が早鐘を打ち出した。手汗で持っている紙袋を落としそうになる。それを必死に堪えて、ギシギシと鳴りそうな体を動かしながら彼の方を向いた。
山崎くんはもう席についていて、カバンの中の教科書を机の中に移している。そんな彼に近づいて来る女子はいない。
よ、よおし。行くぞお〜…。
紙袋を落とさぬようしっかりと握りしめて、私は一歩を踏み出した。
「えっ、何お前その可愛い袋!」
その瞬間、山崎くんの傍に来た男子がそう叫んだ。
「ちょ、お前返せよ」
山崎くんの手から何かが奪われる。
「うわぁ、羨ましい〜。早速もらってんのかよ〜」
その男子の手には、淡いピンクの袋の上に白のストライプが入った可愛らしい包みが握られていた。口を縛っているピンクのリボンが、ひらひらと揺れている。
「なぁ、誰から?誰から?」
「部活のマネージャーだよ、早く返せ」
不機嫌そうに言う山崎くんに男子は渋々といった感じで手渡す。
傍まで来ていた私と山崎くんの目が不意に合った。私は無意識に紙袋を後ろに隠す。
どうしたらいいのか分からず少し後ずさると先生が来て、私は彼から目を逸らし自分の席についた。