北野高校入学式。私はこの日、君と出会った。
「俺、山崎隆(やまざき りゅう)。よろしく」
そう言って笑った彼に、すごい人だな、と思った。なぜなら、私なら初対面の異性に挨拶なんて出来ないからだ。
「うん、よろしく」
私も笑って見せたが、条件反射の作り笑顔だった。
彼は小さく笑って会釈した。彼が前に向き直ろうとしていたので、私もつられて前を向こうとする。しかし、ある物が視界の端で捉えられた。
「それ、もしかして…カグラくん?」
前に向くのをやめて、彼の筆箱を指さす。正確には、彼の筆箱に付いているストラップだ。
彼は私が指さす方向を見て「あぁ」と声を漏らした。
「うん、そうそう。『隠れ家カグラ』知ってるの?」
彼は少し興奮気味に聞いた。つられて私も興奮気味になる。
「知ってるよ。連載当初から好きな作品だもん」
「俺も俺も。今度アニメ化もされるよな?」
「そうそう。どこまでやるのかな?」
私達は共通の話題で盛り上がった。どのシーンが良かったとか、ここはこっちの方が良かったとか、いつ先生が来るか分からなかったから、控えめに話していた。それでも、私達の話は大いに熱がこもっていた。
そしてある程度話し終えた時、私は気になっていたことを聞いた。
「ねぇ、山崎くんの『カグラ』のストラップさ、プレバンだよね?誰が描いたの?」
すごく上手いね、と付け足した。
「あ、俺だよ」
「えっ、そうなの。すごーい!」
私は心の底から感嘆の声を漏らして、ストラップから顔を上げた。
「!」
「ありがとう」
その嬉しそうな、照れくさそうな笑顔がすごく素敵で、こういうのも一目惚れって言うのかな、なんて思った春の日。