男嫌いな女王様とクールな臣下

「久俊さん……」一瞬、人を頼りにする目になる。

「具合はもう、大丈夫なの?」
あの日は、ずっと朝まで一緒だった。

その後、体のことが心配だからと言って、週末も彼女のマンションまで押しかけて、そのまま月曜まで過ごしてしまった。

信じられるだろうか?

ベッドではあんなに甘えて、あんなに初心な自信のない少女みたいだったのに、人前でテキパキと仕事をこなす姿はまるで別人だ。

『行かないで。お願い』
キッチンに水を飲みに行くだけで、彼女に懇願された。

思い出すだけで、彼女を抱いた感覚がよみがえってくる。

彼女を抱いたことがあるのは、この広い世界でも自分一人だった。

あんなにきれいで完璧な子が?

誰のものにもなってないなんて。

何かの間違いだろう。


朱音は、黒髪の短い背の高い男と話していた。

前野は、彼女が話し終わるのをじっと待った。

彼女が話しを終えて、偶然自分の方を向いて微笑みかけた。

いてもたってもいられず、思わず手を伸ばして、彼女を引き寄せて額に手を当ててしまった。

前野は、周りを気にして、手を当ててからすぐに引っ込めた。

いくら朱音が特別な女で、自分だけに特別な顔を見せてくれたからと言って、会社の社長にこんな真似したのはよくないと思った。


前野に対する朱音の反応を見て、横にいた二人の男が、まるで違う反応を見せたので前野は面食らってしまった。

「何があったんです?」と、影山は、今までしていた作業をそっちのけで、目を潤ませて喜んでいた。
ところが、さっき話していた黒髪の男の方は、警戒感をあらわにしてきた。

さらに、
「あんた、誰だよ」と、前野に威嚇してきた。

「あのね榎田。BCエレクトリックの前野さん。春妃と同じ会社で働いてたのを引き抜いてきたの」

「ハルちゃんの?」
ハルちゃんだって?この男、春妃を知ってるのか?

「ええ、そうよ。それから、彼は特別なの。彼は大丈夫だったの」
朱音が無邪気に腕を組んで言う。

「大丈夫って何だよ?」

「そのもの意味よ。後で詳しく説明する」

男の名前は榎田って言った。
その場で名刺交換して、彼が顧問弁護士だって聞かされた。

朱音が見ていないところで、ものすごい形相で彼に睨まれた。

『なんでお前なんかに』っていう強烈な目だった。