朱音が会員制のラウンジに着くと、春妃はすでに席について待っていた。
席についていたのは、春妃一人だった。
ゆるくふわっとした髪、シンプルな日本的な顔立ち。
目立つ人じゃないけど、信念を持っていて背中に筋が一本通っているような娘だ。
朱音は、春妃が好きだった。
今でも、ずっとそばにいたいという気持ちはある。
思い余って、朱音が春妃にキスした事件以来、彼女の婚約者の直哉が、朱音と春妃の邪魔するようにどこにでもくっついてきた。
春妃が朱音に会うと言うと、どんなに忙しくても直が付いてくるのだ。
女同士の会話に割って入ってくるわけじゃないが、ただ黙って横にいるだけでかなりうっとうしい。
直哉も商社を止めて、結婚を機会に、実家の企業を注ぐ決心をしたみたいだから、休む間もなく忙しいだろうに。
どうやって時間をやりくりしているのか分からないが、よくやってると思う。
「元気そうでよかった」
春妃が声をかけてくる。
春妃に会うとホッとする。
余計な気を回さなくて済むのだ。
日々、経営者なんぞの立場に立っていると、世界中で起きているいろんな出来事の流れを読み、目の前では、部下たちの行動の裏まで考えたり、休む暇などない。


