「それがな、なんでも卒業式に卒業生の言葉を言うはずだったヤツが入院したとかで、
式に出られないらしくてな」


あからさまに眉をひそめる金城くんが、また小さなため息をつく。


「担任の安村が、俺にやってくれって」


「えぇっ」


「もう一週間きってんだぞ。今から言葉考えろとか鬼畜すぎねー?」


「それは、何というか…お気の毒だね」


うちのクラスの担任の安村先生は、無茶振りばかりで有名なのは知ってた。


だけど、卒業目前の最後の最後にその無茶振りの餌食になったのが金城くんだなんて…。


金城くん頭も良いし、先生からの人気も高い人だからな。


任命されるのも分からないでもないけど……。


「なんなら、花枝変わってあげよっか?」


「遠慮しとく」


「はえーよ。少しは考えろ」






女子トイレに花を置きに行って、待っていてくれた金城くんと教室に戻る途中、旧校舎に続く渡り廊下の前に差しかかった時だ。


「どうした?」


向こう側から歩いてくる人を、無意識に確認してしまい、しまったと慌てて顔を背ける。


だけど、遅かった。


その様子をバッチリ見ていた金城くんは何かを悟ったのか、眉尻を下げて笑う。