抱きついてしまった手前、今さら“やっぱりいい!”と言って離れるわけにもいかず、長瀬の腕の中で固まっていると、私に回っていた長瀬の腕に力がこもった。



「俺が、センパイのこと嫌いになるわけねーじゃん」



耳に、長瀬の温かい息がかかる。



「で、でも、怒ってたじゃないっ。私が、ちゃんと長瀬と付き合ってるって言わなかったから……」


「ちげーよ。あれはセンパイにじゃねぇ。センパイの足でまといになんかなってる自分が、超ダセーなってイラついてただけだから」


イラついてた?


自分に?


「バカなことばっかやってた自分、クソだなって」



じゃああれは、私に呆れてたわけじゃなかったんだ……。


ほっとしたと同時に、肩の力が抜けていく。



「センパイ、もっと自惚れてていいよ。不安になんてなんなくていい」



長瀬が私の髪をなでながら、“だってさ?”と甘い声で囁く。




「俺にとって、センパイは全てだから」




不安とか、焦りとか、長瀬の言葉が全部をさらっていく。


その代わりに、ずっと我慢していた涙が溢れ出してくる。



長瀬の腕の中は、魔法みたいに私の心を溶かしていくんだ。