パタリと本を閉じると、マーガレットは私に笑いかけた。
「どうですか?」
どう、と聞かれても。
「要はお母様とお父様の馴れ初めでしょう?」
昔は運命だの、魔法だの、とても素敵に聞こえたし、魅力的だと思ったけれど。
何度も聞かされ、歳をとるごとに、そうとしか思えなくなった。
「はぁ。……いいですか、王女様?」
あぁ、始まった。
私はこれから始まる、何度となく聞かされてきた、お母様の素晴らしさという名のマーガレットの憧れを思い出して眉を潜めた。
お母様は、さっきの伝説というか物語の元となった人。
確かに身長は低いし、年齢を感じさせないほどに美しい。
お父様とは依然として仲がいいし、2人とも相思相愛と言った感じではある。
私はそんな伝説の2人から生まれた、一人娘。
エルネスタ王女……とは呼ばれるけれど。
母の面影はどこへ、と従者に心配されるほどに似ていない。
いや、見た目じゃなくてね、性格が。
お淑やかで我慢強く、気高い母とは真逆。
気に入らない事があれば口に出すし、愛想笑いなんてもの出来ないほど、素直すぎる。
過去に、「性格が悪いわけではないのですけどね」とマーガレットに言われたことがある。
まぁ私もそれは自負している。
おかげで従者にも両親にも好かれているらしいし。
仲が良くなれば普通に笑顔も見せるし、面白ければ笑う。
ただ、愛想笑いはしない。
私が過去の母上と同じ状況になれば、言うことなんて聞かずに継母たちをぶっ飛ばしそう、とは従姉妹のヘレンの言葉である。
確かに否定はできない。
実際何もしないのは無理だと思う。
顔はね、それなりに母に似て綺麗とは言われるけどね。
「………でですね………って、聞いてますか王女様?」
母の素晴らしさをこれでもかと語っていたマーガレットが、私がフリーズしている事に気がついて眉をひそめた。
「えっ、…と、聞いてる聞いてる」
慌てて取り繕うけれど、マーガレットは今日何度目かのため息をついた。
そんな彼女を見て、また慌てて口を開く。
「そ、それよりさ、マギー。どうして私にそんな昔話を?」
慌てて言ったが、疑問に思っていたのは事実。
両親に関する行事があれば、その前に必ず聞かされて入るけれど、数日後にそんな予定はなかったはず。
あ、ちなみにマギーはマーガレットの愛称ね。
私の疑問にマーガレットは、それはですね、とにっこりと微笑んで。
「エル王女が婚約するからですわ」
と、可愛らしい笑顔で初知りな事実をふっこんできた。
そして。
「はぁぁぁあああああああああ!?」
私はその言葉に叫び声を上げるしかできなかった。