エルネスタが立ち去ったあと。
第一王子であるヴィンセントは大きくため息をついた。
理由は一つである。
上の弟であるギルバートの行動についてだ。
「………何度言えばよいのでしょうね…」
呆れつつも、彼はあてがわれた部屋をでて、隣の弟の部屋へと移動した。
一応ノックしてから部屋に入ると。
「あのさぁ!いい加減にしてくんない?!」
下の弟、アルバートが腰に手をあてて、ギルバートを睨んでいた。
「落ち着きなって」
イライラしてるアルバートとは逆に、ヘラヘラとしたままのギルバート。
「はぁ?何言ってんの。お前のせいで俺の立場も危ぶまれんだよ」
しれっと兄に対してお前呼びするアルバートにも、ヴィンセントは頭痛を覚えた。
さっきのエルネスタの前での態度との違いはもはや別人レベルである。
「ほんっとお前は腹黒だねぇ」
伸びた語尾にイライラが積もったのか、アルバートの眉がピクピクと動いた。
このままでは手を出しかねないので、ヴィンセントが口を開いた。
「ギルバート、さすがに私もあの態度には目を瞑れませんよ?」
ヴィンセントが静かにたしなめると、ギルバートは参ったなとでも言うような顔をした。
「2人とも厳しいねぇ。ああいう姫は単純に口説いたってダメなんだよ。あとから、あれ、いい人かも?とかの方が印象に残る」
というわけのわからない自論を展開するギルバートを、アルバートは鼻で笑った。
「悪い方で残ってるっつの」
「……………………アルバート、兄に対しての敬意を持ちましょうか」
と、ヴィンセントがたしなめると。
「なら敬意を払われるような行動をして欲しいですね、兄上?」
まったく反省などする気も無いアルバートの言葉が返ってきた。
ヴィンセントが、はぁ、と一つため息をつくと。
「とにかく、変なことしないでよね」
と、ギルバートを睨みつつ、アルバートはそういい捨ててさっさと部屋を出ていった。
「どいつもこいつも…………」
と、ヴィンセントが珍しく苛立っているのを見て、ギルバートは、おぉ怖い怖い、と楽しそうに笑っていた。