バタン、とドアを開けると、何かが私の前まで突進してきた。







「エルネスタ様!お会いしたかったです!」






突進してきたそれは、呆気に取られる私の手を問答無用で握りしめ、指先にちゅっとキスをした。







「………ぇ、ちょっと……あの……」





ようやく思考回路が正常に戻ってきた私は、自分の手を握りしめているそれを見る。






サラサラした金髪。





キラキラとした蒼色の瞳。








「えっと……………アルバート王子?」





あれ、ギルバートのほう?






いや確かあってるはず。






上からヴィンセント、ギルバート、アルバートだったはず。






…………………うん。






頭の中がカオス状態の私の手を一向に離そうとしない彼は、嬉しそうに笑った。






「覚えてくださったんですね!はい、アルバートです!エルネスタ様!」






ニコニコニコニコ。






うわぁ、離してってすっごく言いづらい。






言ったらさっきと同じような哀しそうな顔されるじゃん。







もう誰か止めて。






誰かに責任転嫁してこの場をのがれようと視線をアルバートから離すと、彼のすぐ後ろに、長身の男性がいた。









「アルバート、ダメですよ。姫が戸惑っておいでです」






そう言って弟をたしなめつつ私から引き剥がしてくれたのは、銀色の長髪。






………………ヴィンセントか。






「すみません」





責任転嫁して。






続く言葉は心の中で呟きつつ、そっと頭を下げると。





「いえ、弟に悪気はないのですが……すみません」





「ごめんなさい、エルネスタ様」





綺麗な顔の兄弟に謝られると。





しかも1人は落ち込んでいる。





なんか、私が悪いみたいな。







そんなふうに思いつつ、とりあえず本来の目的を達成しようと動き出す。







ついでにさっさと帰って寝たいというのも本音である。






「お部屋に案内します。みなさん別の部屋を用意していますが、離れたところではないので………」






と、説明しつつ視線を感じて目を奥に向けると。





じーっとこちらを舐めまわすように椅子に座る男性がいた。






……あれは、ギルバートか。






品定めするような視線に不快感を感じて眉を潜めると、彼はゆるりとした動きで近寄ってきた。





そして私の前で立ち止まり、さっきまでアルバートが握っていた私の手を持ち上げると、手の甲にキス…………。








しようとしたので、真顔で手を引いた。







私の行動に瞬きを2つしたギルバートは。







「……不快にさせたのなら謝ります、姫。邪な思いなどなく無意識に、しかし美しいなと、目の保養としてしまったのです」





と、色気を滲ませて笑った。






つらつらと歯の浮くようなセリフを並べられるのは彼が女性の扱いに慣れているからか。






隣国の王よ、よくもまぁこんな浮ついた男を私の婚約者候補として送り出せたな。






国同士での取引としては、軽く国の恥だぞ。







「…………………いえ。ではこちらにどうぞ」







私は、詫びるギルバートと呆れる兄、おろおろと慌てる弟を気にせずに、しれっと真顔で背を向ける。







ここで『嫌だわ、美しいだなんてそんな、お上手ね』と微笑みを浮かべられるほど私は可愛くない。







そして私は根に持つぞ。






さっきの視線、墓に入るまで覚えてるからな。






あの視線は確実に美しいから目の保養なんてものではない。






相手の力量を測っているような、そんな目。




それを隠そうともしなかったあたり、相当舐められている。





どうせアンタらにしたらかごの姫でしょうよ、けっ。






と、密かに不機嫌になっていると。







「すみません、弟はあぁいう性格なのです。どの女性に対しても……」






でしょうね。




他の女の人は違うのに私だけとなったらそれこそ気味が悪いわ。





「いえ、気にしてませんし、突然婚約者候補ーなんて女が現れたら気になるでしょうし。仕方ないですよね」





あぁ、やっぱり言葉に棘がある。





ここでムキになれば、お父様たちの評判が良くないと思うのに。