「……彼にも名前はあるわ。でも、名前で呼ばれることを切碕は極端に嫌がっている」
名前で呼ばれることを極端に嫌がっている?
でも、切碕にもちゃんと名前があることに何故か安心してしまった。
「何で嫌がってるの?」
「名前は基本的に研究施設のトップ──、藤邦の当主が≪全て≫をマスターした時につけてくれるの」
母さんがさす≪全て≫が何のことをさすのか一瞬分からなかったけど、母さんが生まれた理由を思い出して理解した。
「でも、切碕は今と違って虫も殺せないくらい穏やかな子だった。だから、名前を貰えてなかったの」
今の切碕しか知らない俺にはその話が嘘のようだった。
人を殺すをが楽しみで生き甲斐と思っている奴が虫も殺せないくらい穏やかだったなんて……。
母さんは俺の反応に苦笑いを浮かべながらも話を続けた。
「でも、ある日。切碕にも名前が与えられた」
「……ってことはマスターしたの?」
母さんは首を横に振った。
マスターしていないのに、名前が与えられたってどういうことだ?



