「そう叫ばなくても大丈夫よ……。条件反射で急所は避けたわ……」
母さんは腹部に走る痛みに顔をしかめながらも、穏やかに笑った。
昔俺がよく見ていた笑顔だ。
でも、母さんはそう言っているけど、すぐにでも手当てしないといけないはずだ。
「潮……」
父さんはそんな母さんを抱き締めて、涙を流していた。
涙を流す父さんを見たのは初めてだった。
母さんも穏やかに笑いながらもその目には涙が浮かんでいる。
この10年が母さんにとって、どれだけ過酷なものだったか俺には分からない。
ただ、分かるのは離れてても母さんは俺達家族を思っていたということ。
「……とりあえず、救急車呼ぶとするか」
なず姉はポリポリと頬を掻くと、俺を見上げてきた。
両親の良い感じ雰囲気を見ているのは子供である俺達には何とも気恥ずかしい。
「そうだね」と苦笑いで頷くと、俺はアリスさん達の方を見た。
そして、絶句する。
「風間、さん……?」
声なく泣いているアリスさんに抱き締められながら風間さんは目を閉じていた。
死んでいるのは思えないほど、穏やかな顔だった──。



