「朱鷺」




彼はようやくその人物の名を呼んだ。




その人物──、朱鷺は無表情のまま彼を見つめている。




「……後は頼んだ。アリスと小鳥遊君を守ってやってくれ」




彼の願いに、朱鷺は小さく頷いた。




そして、持っていたナイフで彼の腹部を深々と突き刺した。




彼は小さく呻いたかと思うと、朱鷺を強く抱き締める。




まるで、親が子を抱き締めるかのように強く、なおかつ優しく。




彼は朱鷺に一言伝えると、穏やかな表情で目を閉じた。





その目がもう一度開くことはない。





「智さん……」




朱鷺は生みの親である彼を抱き締めた。




その目からは一筋の涙が溢れ落ちていた──。