彼女──アリスさんがいることには特に驚かなかった。
俺が驚いたのはアリスさんの見つめる先にいるアイツ。
アイツは利き手とは逆の左手にナイフを握っていて、刃は赤く染まっている。
そして、アイツの足元には脇腹を押さえて倒れる女の人とその女の人の連れが座り込んでいた。
「っ!」
「天河!待て!」
俺は踵を返すと、和泉の静止も聞かずに走り出した。
人を避けてエスカレーターを駆け下り、その中庭から逃げる人を掻き分けながら進んだ。
何で……、何でアイツが此処にいるんだよ?
だって、アイツは──。
俺は進む足を止めた。
「……大量に出血した割には元気そうだね、朽月莉瑚」
アリスさんが険しい顔でアイツを睨む。
アイツ──、莉瑚は血に濡れたナイフをアリスさんに向けて狂気じみた顔で笑っていた。



