「潮姉さんは僕が大事?」
「大事よ。たった一人の弟だもの」
「うん。僕も潮姉さんが大事だよ」
彼女に母親に甘える子供のようにすり寄ると、男はそのまま眠ってしまった。
彼女にとって彼はたった一人の大事な弟。
しかし、彼女には彼以上に大事な存在があった。
愛しい夫と愛しい我が子だ。
彼女はその事を男に隠している。
隠さなければ、愛しい家族は殺されてしまうから。
「……大事なものなんて作らない方が幸せよね」
彼女の呟きは夏の生温い風が消してしまうほど、小さかった。
まるで、大事なものを作ってしまったことを悔やむような小さな呟きだった。



