こんなに笑顔で楽しそうにしている彼女も何か悲しいことを抱えている。
多分、それは≪彼≫に関すること。
俺にはその≪彼≫が誰なのかは分からない。
でも、アリスさんにとっては楽しいはずの日常が楽しくなくなる程、その≪彼≫は大切な人だった。
それだけは分かった。
「──ホントに邪魔かも」
ふと、後ろからアリスさんのものとは違う低い声がした。
俺でもない、アリスさんでもないということは一人しかいない。
「莉瑚、何か言った?」
振り向いて莉瑚の方を見れば、莉瑚は「何も言ってないよー」と返してきた。
俺の気のせいか?
前を向き直ると、ようやく押すのを止めてくれたアリスさんと並んで歩いた。
「何も言ってないよ。何も……ね……」
この時、前を向いていた俺は莉瑚が身震いするほどの狂気を顔に浮かべていたこと知らなかった。



