ぱしゃぱしゃ、地面に溜まっている雨粒を跳ねらせながら、バス停前に一瞬で到着した。


濡れた身体を整えずに、バス停に並ぶきみを見つめる。


きみは透明なビニール傘をさしながら、器用に本のページを片手でめくった。



……やっぱり、かっこいいな。



視線は今日も一方通行で、かすりもしない。


もどかしさを飲み込んで、恐る恐る前に出る。


いつもは横や後ろをそろ~っと通っていたけれど、今日は大胆にきみに駆け寄ってみた。


雨が、また音を立てて跳ねる。



緊張する。でも、不思議と苦しくはない。


なんだろう、この感覚は。


雨の中でも、ちっとも寒くない。



きみの隣に立ってみても、きみがわたしを見つけることはなかった。


ひどいなあ、と思いつつ、心のどこかで微笑んでいる自分がいる。


あぁ、とても、とても、愛おしい。


この気持ちを、ずっときみに伝えたかったの。


ゆるり、ときみの足元に頬を滑らせ、ゆっくりと口を開いた。




――好きです。


「にゃーお」




ポツリポツリと雨が降る音に混じって響いたわたしの声が、きみに届いた。


きみはやっとわたしに気づいて、目が合うと優しい笑顔を向けてくれた。


しゃがんでわたしの頭を撫でながら、問いかける。



「きみ、名前は?」



想像していた以上にずっと温かな声だった。




<END>