「香埜子ちゃん、ほら、そこの入口の脇に置いてあったテーブル見たかい?どうだった?」
「ええ、天板の木目がとっても素敵でした」
聞かれたので、思ったことをそのまま口に出す。和さんは、私の返事に満足そうに目を細めた。
「あれ、哲生が全部一人でやったんだ。山に入って木を選ぶところから始めて、製材も立ち会って。乾燥もデザインも組み立ても、全部哲生に任せてみた。ここに来て、三年であれが初めてだ」
まるで自分のことのように誇らしげに話す和さんは、私にもういちど微笑んでから、つけ足した。
「だから、完成したらちゃんと褒めてやって。香埜子ちゃんに褒められるのが、一番嬉しいだろうから」
当たり前みたいに言われて、否定するような無粋な真似はできなかったけれども、彼が褒められて一番嬉しいはやっぱり師匠の和さんだろうと思う。それに、彼にはきっと私よりも報告したい人がいるはずだ。
例えば、大学を中退して以来、絶縁状態の御両親とか。家具職人になると言った途端別れを切り出された、大学生の頃の元カノとか。
その証拠に、さっきテーブルについて尋ねた時に、哲生は何も言わなかった。
ただ何となく日々を共にしている私には、報告するに値しないのではないだろうか。
そんなことを考えると同時に、私は気付いてしまった。
彼は私と同じようにこの町に暮らしているくせに、決して私と同じではないことに。
哲生の作ったテーブルは、きっとここではないどこかへと旅立つ。
彼は自分の作り出したものを通じて、日本中、いやその気になれば世界中と繋がることができるのだ。
あのテーブルが、一層キラキラと輝いて見えた。



