「たまには、唐揚げくらい入れてあげたら?」
「へ?」
「へ?じゃないわよ。哲生君の分、毎日お年寄りと同じメニューで可哀想じゃない。たまには肉も入れてあげなさいよ」
「そんなこと言ったって、ウチは魚屋なんだから仕方ないじゃない」
「そんな屁理屈こねてる暇があるなら、ホラ、煮しめで使った鶏肉が余ってるから、ちゃっちゃと揚げちゃいなさい」
「いいわよ、これで。一人だけ違うメニューなんておかしいし」
「彼氏をちょっとくらい特別扱いしたって、誰も何にも言わないわよ」
「いいってば。じゃあ、行ってきます」

母と会話しながら配達用のコンテナをお弁当箱で埋めていく。あとはこれを全て配達用の車に載せるだけ。
不服そうな顔の母に、放っておいてくれとと目で合図してから、作業に集中する。その甲斐あってか、私はいつもより少しだけ早く配達を開始した。


「香埜子ちゃん、いつもありがとね」

毎日のように顔を合わせるおじいちゃん、おばあちゃん達は、お弁当を手渡すといつもニコニコ笑ってお礼を言ってくれる。
その笑顔を見て、今日もみんな元気で良かったなと、胸をなで下ろす。
お弁当を毎日届けながら、こっそりとみんなの安否確認をしている。実はお弁当よりもこっちの任務の方が重要なんじゃないかとさえ思う。

「明美(あけみ)ちゃん、今日はいつもよりキレイだねぇ」

時々、単なる言い間違えなのか、本気で間違えているのかは不明だが、母の名前で呼ばれることもある。
まあ、それでもみんな元気ならよしとしよう。