「でも、ちゃんとこんな素敵なテーブル、作れるようになってるんだもん、十分すごいよ」
「だったら、香埜子だってすごいよ。なんとなくで手伝い始めたのかもしれないけどさ、ちゃんと資格も取って、おかずの感想もこまめに聞いて、おいしくなるように研究してるし。何より、この町のお年寄りは香埜子のことを信頼してる」
「だって、それは。私が小さいときからここに住んでるから当然のことで…」
「俺にはそれだけが理由だとは思えないし、仮にそうだったとしても、香埜子にしか出来ないんだから、すごいことだよ」
「だから、哲生に比べたら全然すごいことないんだってば!」
褒めちぎられても素直に喜べない、卑屈な私の性格を知っているからか、哲生は少し呆れたような顔で深く息を吐いた。
「香埜子には、いくら言っても全然通じないみたいだからさ。直球で言うことにする」
哲生が下を向いている私を覗き込む。
真剣な瞳に見つめられて、私はすっかり視線をそらすタイミングを逸した。
「結婚しよ」
「は?」
そして、彼の口から出たひと言の衝撃に、再び口をだらしなく開けて唖然とする羽目になる。
「何、その意外って顔。さっきから、何度もそれっぽいこと言ってるんだけど?」
「え?うそ?」
「嘘じゃないよ。毎日香埜子のご飯が食べたいってそういう意味でしょ?このテーブル作り始めた時から、出来たらプロポーズしようって決めてたし」
「え?私なんて、ただ他に相手が居ないから付き合ってるだけじゃないの?」
私の当然の主張に、何故か哲生は心底呆れた顔をしていた。実際には見えないけれど、彼の顔には「ダメだこりゃ」とはっきり書いてあるに違いない。
それでも、哲生はすぐに怒ったような声で私を問いただした。
「好きだから付き合ってるに決まってるでしょ。俺のことどんなヤツだと思ってたわけ?」
「いやいやいや、ちょっと待って!好きだなんて一回も聞いてないし!」
「そんなの、いい年して照れくさくてわざわざ言わないよ。普通は好きじゃないのに付き合わないと思うけど?」
「だって最初に“なんとなく”って…」
「そんなの“なんとなく好き”って意味でしょ」



