なんとなく君に恋をして


道すがら、ふと初めて彼の家に行ったときのことを思い出す。

町の商工会の飲み会で、酔いつぶれた父を迎えにいったつもりが、気付いたら私まで飲まされていた。
こんなのはよくある話で、父は次に来た母の迎えで早々に帰って行き、だいたい私が人質のごとく残されるのだ。
ただその日は、子どもの頃から顔なじみのおじさま達に日本酒をしこたま飲まされて、程なくしてべろんべろんになった私(お酒に弱いのは家系だ)を、これまた和さんに呼び出されて飲んでいた哲生が歩いて送っていくことになったらしい(らしいというのは、この時の記憶が曖昧で、後日聞いた話だからだ)。

それで、きっと彼も私も魔が差したんだろうと思う。何せ、この町には若い年頃の男女は数えられるほどに少ないのだ。
よく覚えてないが、気付いたら哲生の家のふとんの中だった。二人とも裸でしっかりと抱き合っていた。
やってしまったと反省すると同時に、久しぶりに感じた肌の温かさに、思わず心地よさを感じたのも事実だ。
数分後、ようやく目を覚ました哲生は、軽いジョークを言うみたいに笑いながら尋ねた。

『とりあえず、付き合う?』
『なんでまた?』
『んー、なんでって言われても、なんとなく?お互いフリーなら問題ないでしょ』
『どうしてフリーだって決めつけるのよ』
『いや、だって。一応、昨日確認したから』

どうやら、昨夜は哲生の方が幾分か正気だったらしい。

『よろしくね、香埜子ちゃん』

抱きしめられると温もりが心地よくて、私はそれを振り払うことができなかった。
高校卒業以来出会いもなく、ろくに恋愛してこなかったことも祟ったのだろう。

『なんとなく付き合ってもいい気がしてきた』

かくして、私たちは“なんとなく”付き合いはじめたのだった。