ずっと思っていた。
この仕事を長く続けるつもりはないと。
哲生とは長く続かないだろうと。
だってどちらも“なんとなく”で始めたのだから。
運命の出会いや、高い理想なんて最初からなかった。
それでも、今日まで“なんとなく”続けてきてしまったのだ。
「ま、笑いたくないときには、無理に笑わなくてもいいけど」
黙り込む私にそんな言葉を掛けながら、哲生はまた嬉しそうに目を細めながら笑った。素直には認められないけれど、その私だけに向けられる笑顔を失いたくないと思う自分がいる。
私は哲生にとってただなんとなく一緒にいるだけの彼女でしかないというのに。
この笑顔が、錯覚させるのだ。自分がとても彼に愛されているのではないかと。
「じゃあ、笑わない」
ぽつりと可愛げのない言葉を落として、弁当箱のふたを閉じた。何か都合の悪いものを隠したような後ろめたさを感じる。
「香埜子はいいよ、そのままで」
彼はこちらを見ないまま、私の頭をポンポンと撫でる。また、私の勘違いメーターが振り切れそうだ。哲生のその何気ない仕草が、またしても私の心を惑わす。
「俺の方が変えることにする」
何を?と聞き返すことは出来なかった。
哲生が私を珍しく真剣な顔で見つめていたから。
「あれができたらさ、香埜子に話があるんだ」
哲生が指さした先には、やはりあのテーブルがキラキラと輝いていた。



