とても幸せな夢を見た。

何かはよく覚えていないけど、凄くふわふわとした優しい夢だった気がする。

淡い光が集い、栢木の体も心も軽くなって、ただ幸せに満ちた世界に浮かんでいるようだった。

何故か聞こえてくる馬の蹄の音、しばらくして自分が馬車に乗っている事に気付いた。

ああ、そうか。馬車の心地よさに負けて寝てしまったのだ。

起きて仕事をしなくては。

まだぼんやりとした意識の中で起き上がろうと体を動かし始める。しかしそれは優しい手によって制止された。

「いいから、寝てろ。」

栢木の好きな匂いが鼻をかすめる。温かい手がそっと撫でるように頭に置かれた。

極上の優しさに触れた気がして幸福感に満たされていく。

目を開かなくても傍に誰が居るのかが分かる、その事実が心をくすぶらせて高まらせた。

「はい。」

素直な気持ちが声になって出てくる。

頭は完全には眠っていないが、体はもう動かない。

それでも顔は自然と微笑んでいたようだ。意外な栢木の返事に笑う北都の声が聞こえてきた。

あやすように優しく頭を撫でる感触が心地いい。

「やっぱりボディガード失格だな。」

優しい声が栢木に投げられた。

そうですねと言いたいのにもう口元でさえも動かない。体とのアンバランスにもどかしくなってきた。

やはり今日の北都はいつもと違う。

まるでどこかに行ってしまうような不安にも駆られる位、すべてが丁寧に感じる。

これが最後の別れだからと惜しむように思えて仕方ない。