「教育上よくないな。」

「その前に主には似合いませんね。」

「何かし返してやりたいだろう?」

当然の心理だと息巻くも、らしくない発言に自身の格が落ちたようでため息が出た。

「いっそあの子が誰かいい人とまとまってくれると助かるんだがな。」

「はあ。」

「思う相手と生きる道を共にする。それに勝る贅沢はないと育ててきたんだ、ここで私たちが負ける訳にはいかん。」

目に力が宿るタオットからは強い意志を感じる。

栢木が屋敷を出てからも何とか返事を先延ばしにし、縁談を断る手立てを模索していたがやはり公爵が仲介人であるという印籠が可能性をことごとく潰していった。

貴族同士の婚姻には本人の意思が尊重されない風潮が未だ強く残っている。

自分たちがその風潮に流されることなく思い人と結婚することが出来ただけに、タオットも今回の件に対する思いは強い。

タオットはこの風潮に嫌悪を抱いているのだ。

実の甥とはいえ、ここまでされる謂れはない。

キリュウには勿論、実の兄であるダグラス伯爵に対してもタオットは怒りの感情しか持ち合わせていなかった。

貴族である以上逃げられない縁談であるというのなら。

「爵位だろうと何だろうと、あの子の為なら捨ててやる。」

伯爵の称号を国王に返上すると決め、栢木家ではその準備に取り掛かっていた。

やってやれないことはない、それを合言葉に家族全員がタオットの決断に従うと決まったのだ。

しかし内密に行われている作業には時間がかかる。

ダグラス側に知れてはたちまち潰されてしまう話だ。

栢木がキリュウに見つかってしまうのが先か、いわば時間との勝負だった。

「食べていくのに困った時は仕事でも斡旋してくれよ、タクミ?」

「有りますかね?主好みのヤバイ仕事なんて。」