「蒼葵さんはただぁ、今夜のことを電話で教えてくれただけだってばぁ」


「甘いわよ、琴沙。それはアンタが鈍感なだけ」


「えぇ~、そんな事ないよぉ」




首をぶんぶん振るのにあわせて、肩先までの髪が揺れる。
淡い茶が混じった色をして、さり気なくレイヤーが入っている。




「そんなことあるのよ」


「むぅ~」




納得のいかない様子で卵形の小顔の頬をぷくっと膨らませたこの容姿端麗な童顔女子は、アタシの吹奏楽部仲間で同級生である他に親友でもある、白峰(しらみね)琴沙。


その手元には、フルートの楽器ケースがある。




あのあと。




「おーい峰岸、白峰ー。いい加減カギ閉めるぞー」




琴沙に問い掛けようとしたところで部長に遮られ、そこではじめて、いつの間にかアタシたちの他に誰もいなくなっていたことに気付き、慌てて二人でティンパニを片付けて
音楽室を出た。


そして帰り道で、改めて琴沙に訊いたら。




「――昨日ねぇ、禾楓ちゃんのケータイに電話したら蒼葵さんが出てぇ、たくさんしてくれたお話の中で教えてくれたのぉ」




それを聞いたアタシは絶句した。




で、さらにそのあと、また肩を落としてひとつ幸せを逃した後で。




知ってしまったなら仕方ない、別に秘密にしてたワケじゃないし、このまま琴沙にも付き合ってもらおう。


と思い直し。




「――わかったわ。じゃあ、帰ったら私服に着替えて夕飯を済ませてから駅で待ってて。あ、フルート、忘れないでね」




と約束して数十分後、今に至る。