「あたしの話ぃ、ちゃんと聴いてぇ!」


「うくっ……」




振り向いて抗議すると、琴沙は顎(あご)の下に両手を組んで、くりっとした瞳をうるうるさせながらアタシに迫る。


端麗なお子様のそんな仕草に、アタシは言葉を詰まらせた。




出た。リーサルウェポン。




これぞ、アタシが琴沙を小悪魔と呼ぶ最大の理由。




ことさたんの、その名も、必殺・うるるん落とし。




ってまあ、早い話が泣き落としなんだけど。




これにはさすがのアタシも為す術がない。




「ああわかったわかった、わかったわよ」




アタシが観念したとたん、小悪魔の表情が華やいだ。




ほんっと、喜怒哀楽の激しいコ。見てて飽きないわ。





「で、何?」


「うんッ。あのねあのねぇ? 今日って確かぁ『約束の日 』でしょぉ?」




頼むからアタシより年上な容姿で両腕をばたばた振りながら喋るのはやめて欲しい――




って、




「――え?」


「だーかーらぁ、今日は『約束の日』なんでしょう?」


「…………」




…………ええっと。




琴沙は「だーかーらぁ」と言いながら人差し指で、指揮棒を振るようにゆったりと、空を切っていた。




アタシはその指を、しばらくただ呆然と見つめていた。




確かに今日は『約束の日』。




でも。




何で琴沙が、それを知ってるの?