蒼葵もそれ以上は何も言わず、しばらく二人の間に沈黙が流れた……――
――って、二人?
いつもならこんな時、あの小悪魔が口出ししてくるはずなんだけど……。
「琴沙?」
「……すごぉい……」
「……ああ、コレか」
辺りを見回すと彼女はまだ車のそばにいた。
白い息が、真上に昇っていくのが見える。
たぶん、車から降りてすぐコレを目にしたのだろう。
気持ちはすごくよくわかる。
アタシも、初めてコレを見た時はそうだったから。
琴沙はフルートのケースを両手で胸に抱いたまま空を見上げ、そこに広がる星の大海原に見入っていた。
今夜は新月で、月が姿を見せることはない。
月明かりに勝るとも劣らない光量を、星たちが放ってくれていた。
まさしく、星月夜。
初めてこの光景を見た人は、いまの琴沙のように言葉を失い心奪われる。
たぶん、どんな人でも。
それまで重く沈んでいたアタシの心は、琴沙のおかげで羽根のように軽くなった。
こういう時、このコの存在は本当にありがたい。