春兄と南さんがどこへ向かったのか、会う目的は何だったのか、それが気になったまま河西くんと帰っていた。
「なぁ鵜崎?どうしてあの二人…」
河西くんの声掛けに、私はようやく口を開いた。
「実は、あの二人、昔付き合っていたらしいんだ」
「え、それまじ?」
「うん。前に二人が一緒にいるところを見て、春兄に聞いてみたら、元カノだって言ってた」
「そんな人がうちのクラスに…凄い偶然だな」
あってほしくない偶然だ。
最近の私はどこかおかしい。
春兄のことで、ドキドキしたり胸が苦しくなったり、まるで…
「…っ」
「鵜崎?」
まるで私…春兄のことが、好きみたいじゃん。
「鵜崎、どうした?」
「えっ、あぁ…」
「おまっ、泣いてんのか!?」
河西くんに言われて初めて気付いた。
自分の頬を伝う涙に。
「おいどうしたんだよ!何で…っ」
何かを察したのか、それ以上何も聞いてくることはなかった。
河西くんにそっと抱きしめられ、その胸で私は泣いた。
河西くんのことが好きなはずなのに、違う人にドキドキしてしまっている。
こんなこと…ダメだよね。
何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれている。
私はこのままでいいのだろうか。
"何か"を決断しなくてはいけない日が来るはずだ。
「やっぱ…勝てねぇよな」
ボソッと小さく呟いた河西くん。
顔を上げると、河西くんは悲しそうに笑った。
「いや、何でもない」