「お母さんはてっきり、藍と春人くんがくっつくものだと思ってたけど、案外うまくいかないものね」


ページをめくりながら呟くお母さんの言葉に、内心ドキッとした。


頭を巡るのは、夢での春兄の告白。


単なる夢なのに、どうしてこんなにもドキドキするのだろう。


そして、いつもなら覚めれば消える夢が、今回は鮮明に頭に残っている。


「…実はね、お母さんさんにも幼馴染の男の子がいたの」


「そうなの?」


そんなの、初めて聞いたな。


「その子は同い年だったんだけど、幼稚園から一緒で一番仲が良くて。もちろん大好きだったわ、幼馴染として。でも…」


お母さんの表情が少しずつ曇った。


「その子はずっと、お母さんに恋していたみたいだったの。それに気づかないまま大きくなって、お母さんは別の人と付き合い始めたわ」


今までお母さんのそういう話を聞いてこなかったから、自然と耳が傾く。


初めて知る、お母さんの過去。


「中学3年のときかしら。その子ね?事故で亡くなったの」


「えっ…」


「その後にその子のお母さんから聞いたのよ。彼の本当の気持ちを。そのときお母さん、身体中の水分が全部無くなるくらいに泣いたのを覚えているわ。失ってから気づいたの。その子の存在の大きさ、大切さに」


言葉が出なかった。


身近な人が若くしてこの世を去ってしまうなんて、私には想像もできなかったから。


「いることが当たり前だと思って、普段感謝することもなかった。だから後悔したの。たくさん『ありがとう』を伝えておけばよかったって」


「お母さん…」


重たくなる空気。


それを察したのか、お母さんは急に明るい声を出した。


「あ、だからあんたも、普段から親しい人への感謝は忘れずにってことよ!」


「うん、それはもちろん…」


お母さんはアルバムを閉じ、本棚にしまった。


「晩御飯食べるでしょ?用意するからテーブルの上片付けておいてくれる?」



キッチンへと姿を消した。


重い空気を変えようと、咄嗟にテレビをつける。


こんな時に限って暗いニュース番組だ。


チャンネルを変え、なるべく楽しい番組を選んだ。


あ、お笑いやっている。


こりゃラッキーだ。



私はテレビを見入った。


いや、見入る努力をした。



だけど、どんなにテレビのボリュームを上げても、あまり耳に入ることはなかった…