chapter7 聖女が奏でる凱旋唄(Triumphal ballad)


目が覚めると、もうレイオウルはいなかった。まだ夜明け前だというのに。

そういえば奇襲攻撃をするなんて言っていたかな、とぼんやりする頭で思い出す。

金の懐中時計と掌に微かに残った熱だけが昨夜の出来事を夢ではないと証明してくれていて、手を握りしめてほんの少しだけ泣いた。

暫くして、数刻前に三頭犬の復讐の面々が出発したのだと教えてくれたのはルウリエだった。

彼女の赤くなった目を見て、態と自分を起こさなかったのだろうとわかったから。何も言わなかったし言えなかった。

「今はただ……信じて待ちましょう。なんと言ったって人間最強の騎士である殿下がいらっしゃるのですから。きっと勝てます」

「……そう、だよね」

フェリチタはぐっとそれ以上の言葉を飲み込んだ。

もう自分が人間であることは思い出したし理解している。

記憶を偽り母親だと嘘をついていたアルルにはもちろん酷く憤りを感じるが、その一方で、ずっと一緒に育ってきた森人の皆を思い出すと、森人を一概に敵だとみなすのはやはり少し難しかった。

結局、自分はどちらの味方にもなれないのだと悟る。森人にも人間にもなりきれない。どちらも大切で、どちらかの側に立って物事を考えることができない。我儘にも程がある。

戦わなくて済むのなら、それが一番いい。どちらも傷つかずにすむのだから……

「どうされたのです?」

すくっと立ち上がったフェリチタにルウリエが静かに呼びかけた。

「動きやすい服を準備して欲しいの。あと、剣もお願いできる?」

ルウリエはじっとフェリチタの目を見つめた。フェリチタの瞳に僅かの揺れも無いことを確認して、目を逸らす。

ふぅーっと、まるで全身の空気を吐き出すようなゆっくりとしたため息の後、絞り出すように声を発した。

「やはり……行かれるのですね、フェリチタ様」

フェリチタはくしゃりと笑って頷いた。