「甘いものは嫌いで食えない。受け取っても仕方ないだろう。大学には靴箱やロッカーがないから平和だ」
チョコ以外でも、酒を渡そうとすれば「コンスタントに試合があって飲むタイミングがない」、
マフラーや小物は「必要最低限しか物を持ちたくない」、
食事に誘っても「剣道仲間と作戦会議を兼ねた夕食の約束がある」と、いちくんのガードが固いことには定評がある。
おかげで、剣道仲間とデキてるんじゃないかって噂が絶えない。
特に、中学時代から腐れ縁のおれと平《へー》ちゃん。
まあ、見栄えのする男3人がいつでも仲良くつるんでたら、妙な方向に妄想を膨らませたがる女子はどこにでもいるわけで。
いちくんは、名残惜しそうに自分の竹刀ケースを撫でて、部室の外へ向かった。
おれも、ショート丈のダッフルコートを羽織って、いちくんに続く。
バイトの後に戻ってくるから、チョコの紙袋その他、かさばるものは置いたままで、カバンの中身はペンケース程度だ。



