時尾ちゃんがホッとしたように微笑んだ。



「よかった。斎藤先輩は甘いものが嫌いって言ってたから、わざわざチョコにするのもどうかとは思ったんですけど、作ってみてよかったです。炒って砕いたナッツと、塩と黒胡椒と生姜と、砂糖をほとんど入れてないビターチョコ。おつまみみたいでしょう?」



「普通にうまいと思う。好きな味だ。香りと風味もいいな。腹が減ってたから、助かった」



「甘い味は苦手でも、香りや風味が甘いものは、斎藤先輩もお好きですよね? この前の飲み会ではラム酒も飲んでましたし」



話の流れから察するに、「好き」っていうのは愛の告白じゃなく、時尾ちゃんが作ったチョコのことみたいだ。


しかし、いちくんが手作りチョコを受け取るとはね。


これはこれで香ばしい展開だ。



ちょっと沈黙が落ちる。


いちくんがコーヒーカップをテーブルに置いて、背中側から見ててもわかるほど大きな息をした。



「こういう場合、お返しは、1ヶ月後でいいのか?」