「勝《かつ》教授からの呼び出し? 早く出たほうがいいんじゃない?」
「たった今、解放されてきたばっかりなのに」
ユーラシア史研究の世界的第一人者、勝教授は人使いが荒いと、いちくんはよく愚痴るけど、それは正しくない。
こき使われてるのは、いちくんだけだ。
勝教授の下に付いている学生は少ない。
見込みのない学生は容赦なく門前払いされるせいだ。
いちくんは仕方なそうに、動画付きの通話をオンにした。
よく通る勝教授の声がスマホから聞こえてくる。
〈よう、斎藤、ちょいと戻ってきてくれねぇか? 早めにやっといてもらいたい仕事を思い出したんで人に頼んだんだが、1人じゃ大変そうでね。手伝ってやってくれ〉
「早めにという程度なら、明日でもいいでしょう?」
〈今日でないと意味がねぇんだよ。俺ぁ今から教授会があって、上がりが何時になるかわからねえ。おまえさんが来てくれると心強い。時間あるだろう?〉
「週末に試合を控えているから練習したい。さっきも言いましたが」
〈ん? たっぷり朝練をやったって話だったじゃねぇか〉
「朝は朝、午後は午後です」