「漢文って訛るのかよ? 意味わかんねえ。てか、あいつの性格なら、もっとシンプルなことやりそうなもんだろ。何でユーラシア?」



「んー、偶然の結果というか。最初から話すとね、東洋史にしろ日本史にしろ歴史学者は、学閥《がくばつ》や学派の壁に固執する人種なんだ。専門にする地域についてもそうだし、扱う研究素材もそう。文献至上主義で、考古遺物なんかに手を出すのは邪道だって」



おれもいちくんも、学閥主義や文献至上主義はナンセンスだと思っている。


例えば、幕末の戊辰《ぼしん》戦争を調べたいなら、文字として残る資料を読むと同時に、戦場から発掘された銃弾や砲弾、装備品の考古遺物を参照したいと考えるのは自然なことだ。



でもまあ、頭の固い教授ってはいるもので、ああこの人の前で正直なこと言っちゃマズいなってのは、空気で感じられる。


そのあたりがうまいのがおれで、下手なのがいちくんだ。