龍成はネクタイを外しながらバスルームに入っていった。


複雑な心境でその後ろ姿を見つめ視線を落とすと、ソファーに脱ぎ捨ててあるスーツのジャケットが目に入る。


もう、しわになっちゃうでしょ。


手に取り、ハンガーに掛けようとすると、何かがポケットから転がり落ちた。


……え、今のって……。


胸がドクンと波打つ。


スピードを緩め、壁にあたり止まった、光る指輪。


拾い上げ手に取る。


「……」


それは間違いなく、龍成の指輪。わたしとのペアリング。そして、婚約指輪でも結婚指輪でもある。


わざと改めて買わなかったんだよね。二人とも、偽装結婚の時に用意したこの指輪以外、なんだか違和感があってつける気になれなかったから。