居酒屋を出てタクシーに乗り、近くのキャバクラに到着。


奏が昔通っていた店だ。

この方面には俺はあまり飲みに行かなかった。

顔見知りがいると面倒で、それを避ける為だけにここにした。奏が通っていたから悪い店ではないはず。


「こちらです」

「へ~。初めてだな、この店」


タクシーを降り店に入る。


黒服に通され、もうすでに満席に近い状態の賑わいを見せる店内の空気に、妙な懐かしさを覚える。


予約席に座り女の子を待つ間、五十嵐が意味不明なことを言い出した。


「神田さん、その左手の指輪、外してもらえます?」


……は?


「え、どうしてですか?」

「キャバクラで結婚指輪なんて付けてどうするんすか。つまらない空気になるだけじゃないですか」


……こいつ……。