親愛なる背中へ



もうすぐ、先生と出会った季節が来る。懐かしい思いが、私を少しだけ心から笑顔にさせてくれた。


「――先生、ありがとうございました」


あの日、ここを休憩場所に選んでくれてありがとう。おかげで私、たくさん大切な想いを知ることが出来ました。


「先生の生徒でいられて、幸せでした」


想いを伝えることは叶わなかったけれど、最後まで先生の大事な生徒の一員にしてくれた優しさは、いつまでも忘れないから。


「これからも、元気でいてください。これ、私からのプレゼントです」


そう言うや否や、ブレザーのポケットから取り出した小さな数個の塊を、無防備に開いていた先生の手に背後から強引に握らせた。

初めて自分から触れた先生の無骨な手の温もりに、意識する前からどきどきしてしまう。

そんな些細な高鳴りに気付かれないように、私は早口で言った。


「……今日、バレンタインだから。こんなもので申し訳ないけど、今まで楽しい時間をくれたお礼です」


登校日の今日は、ちょうどバレンタインデーと被っていた。

でも今日ここで先生と会うまでまだ告白するかどうかも決めていなかったし、本命チョコを渡す勇気もなくて。でも何かは渡したいなと昨日の私が精一杯考えた末に用意してきていたのは、普段からスーパーで売っている大袋に入ったチョコレート。

バレンタイン仕様でもなく、特別感も何もないセロハンで包まれているビターチョコレートを、私は数個だけポケットの中に忍ばせていた。

告白出来なかった今、これが唯一渡せる先生への想いの欠片だった。