親愛なる背中へ



違う。そんなの違う。

確かに私はもうこの学校に通うことも、裏門で先生と会うことも、愛しい背中を追いかけることも出来ないけれど。山内先生がこれから必要ない存在っていうのは、違う。

先生がいるから、私はここにいられた。

本当はとても悲しいけど、先生がいてくれるから、私はここを出ていけるんだ。

大好きで大切な存在が確かにいたことを、胸に刻み込みながら。きっと私は、これからも……。

だけどどれだけ私が必死に伝えようとしても、またしても先生は遮ってしまう。私が言うより先に、緩く笑って首を振った。


「中西の気持ちには、薄々気付いてた。俺のことを“先生”として慕ってくれているのも、それ以外で好いてくれていることも」

「……っ」

「中西と放課後にこの場所で話すの、楽しいと思ってた。だから正直嬉しかったよ……どっちの気持ちも」

「……せん、せいっ」

「……でも、だからこそ、俺は中西が言いたいと思ってる言葉は聞けない。こんな形でおまえの真剣な気持ちから逃げるなんて、ずるいよな。でも、ごめんな。俺は“先生”で、中西は俺にとって大事な“生徒”だから。俺はちゃんと、ここからおまえを送り出したい」

「……うぅっ」


もうすでに十分先生のことを困らせているからこれ以上先生の前で子供じみたことはしたくなかったのに、抵抗虚しく嗚咽が漏れてしまう。

そして一度刺激された涙腺は、まるで最初から止める術などなかったように、ぼろぼろと大粒の涙を落とし始めてしまった。

ちょっとでも気を抜けば幼子のようにわんわん泣き出してしまいそう。最悪それは避けたくて、両手で顔を覆いながら必死に涙と嗚咽を堪えた。