親愛なる背中へ



秘密を閉じ込めるように、先生の少しかさついた人差し指の先が私の唇に触れている。

一瞬のうちに近付いてきて先生にも、その予想外の行動にも驚いた。初めて触れてきた彼の繊細な温もりに、胸が高鳴ったりもした。

それでも今、私の心を一番占めているのは、身を滅ぼしてしまいそうな悲しみだった。


「中西、その言葉は、おまえを幸せにしてくれるやつに言うんだ」

「……っ」


――ああ、そうか。気付いてたんだ。

先生はすべて知った上で、そう言うんだ。

少し屈んで私の目をしっかり見ながら言った先生の真剣な表情を目の当たりにして、ようやく分かった。

先生の気持ちが、初めて分かったような気がした。


私の気持ちを察した上で、それを言わせない。

先生は、私の想いを聞かないことを選んだ。

それが先生の……私への返事なのだろう。


戸惑いながらじっと先生の目を見つめ返していたら、先生は緩慢な動作で指を離して近付いていたふたりの距離を戻した。

でも最後に、慰めるように私の頭に手を乗せる。

そんな些細な気遣いが、無性に悲しかった。

悲しくて、悔しくて、惨めで。どこまでも子供だから、つい、責めるような言葉を出してしまう。


「……先生は、ずるい」

「……」

「……っ、大人だからって、何でも見透かして。私が言いたいことさえ……言わせてくれない!」


告白しても先生がいい返事をくれるなんて、思っていなかった。期待なんて、最初からしていなかった。

それでもちゃんと自分の言葉で想いを伝えようとしたのは、先生と向かい合いたかったから。