親愛なる背中へ







「……早いな。中西ももう、卒業するのか」


過去に飛んでいた意識が、先生の懐かしむような声で呼び戻された。

視線を空から下ろせば、ちょうど先生が箱からまた新たな1本を取り出して火を点けているところだった。

……ほんと、どれだけ吸えば気が済むのだろう。なんだかおまけに今日は、吸うペースが速いような気がする。

瞼を下ろして、暗闇の中に今日までの日々を思い浮かべる。


「3年間なんて、あっという間だったなぁ」


タイムスリップしてしまったんじゃないかっていうぐらい、それはとてつもなく速いスピードで私の後ろへと流れていってしまった。

先生に出会ってからの約2年なんて、その倍の速さだったんじゃないかと思えるぐらいだ。

でも、どれだけ早く過ぎ去ったと思える日々でも。私はちゃんとその時の流れの中にいた。取り残されることもなく、そこに。

先生と過ごし、先生を追いかけてきた日々の記憶は、私の中に染み付いてしまっている。


目を開ければ、変わらずそこには先生の背中があった。


「学生時代なんて、そんなもんだよ。まだ終わらないって思っていても、気が付いたら終わりに到着してる。そして終わりが来たときに、自分が過ごしてきた時間の尊さに気付くもんだよ」

「そうですね、ほんと。先生が出す大量の宿題が嫌な日も度々あったけど、もうあれをすることもないんだなぁって思うと寂しいです~!」

「寂しいって言いながら、喜んだ顔してるぞ、おい」


私の言葉に眉間にしわを寄せながら振り返った先生を見て、ふふっと笑みをこぼした。

……寂しいのは、ほんとだよ。先生。