すると今度は、どうなっているのか、影が私の足元から離れていく。影の頭を誰かが摘み、ぺりぺりと地面から剥がしているように錯覚した。やがて五つの影は自立し、真っ黒な人間となって私を見据えていた。私は一切身動きがとれなくなっていた。恐怖からではない。筋肉がすっかり麻痺してしまった、そんな感覚があった。

そんな私とは反対に、立ち上がった影はそれぞれ手足を動かしたり体を揺らしたりしていた。そのうち影は私の目の前に集まり、そして、ひとつになった。途端に、私はひどい喪失感に襲われた。
眼球だけは動かせることに気づき目線を下に向けると、そこには真っ黒な2本の塊があった。私の脚だった。そして代わりに、影の脚がだんだんと色づいていき、やがて私の足となった。

ああ、そうか。聴力も、体を動かす機能も、こいつに奪われたんだ。そうしてこのあと、胴も、腕も、顔も、五感もすべて、こいつに奪われてしまうんだ。
霧がかったようにぼんやりした頭でそんなことを考えた。

私の胴が黒くなる。影の胴が色づく。
私の腕が黒くなる。影の腕が色づく。

思考も奪われ始め、 考える力すらなくなってきた私の脳が最期に認識したものはふたつ。

ひとつは自分の顔や耳が黒く染まっていく感覚。
そしてもうひとつは、目の前に出来上がっていく『私』の口が、ゆっくりとこう動いたこと。

「願ったあなたが悪いのよ」


_あとがき_
いかがだったでしょうか。これにて本編は終了です。拙い文章でしたが、少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
最後に作者から忠告をひとつ。この物語を読んだあな